欧州印刷業界への COVID-19のインパクト WhatTheyThink?

WhatTheyThink欧州部門の編集者ラルフ・シュレーザー氏は、欧州統計局が発表した2020年5月の生産指数のデータに注目している。当然ではあるが、このデータはコロナウイルスの影響で大きく落ち込んでおり、4月には最低水準に沈み、5月には回復に転じているが、国毎に差はある。
大まかに言えば、欧州の印刷業界の4月の生産量は約30%減少した。

欧州統計局は2020年5月の生産指数データを発表した。これは、欧州の印刷産業が最近どのように推移しているかを知る上で、現時点では最良の情報源となっているが、いくつかの限界がある。これは2015年と比較した生産量の指標であり、値が101であれば、それぞれの月の生産量が2015年の平均よりも1%高いことを示していることになる。
さらに 価格はより重要な測定値であるはずであるが、この数値には価格が反映されていない。
また 生産量の減少のスピードを統計局が使用している統計モデルでは追随できておらず、データは修正される可能性がある。
欧州に於いても印刷業界は多くの小規模企業で構成されているため、この種の統計状況のモニタリングには適していない。
この統計には、パッケージ印刷やラベル印刷のすべてが含まれているわけではなく、企業内印刷やプリントショップの状況は、完全に除外されており、データは商業印刷に偏っている。

2020年の初め、COVID以前の時代では、欧州連合の製造業の生産高は2015年よりも約6ポイント高いランクになっている。印刷・記録メディア(後者はごく一部に過ぎない)の生産指数は約8ポイント低く、近年の印刷生産高が減少していることが確認された。
ただし、これは収益金額ではなく生産量であり、高付加価値化の傾向は考慮されていないことに注意が必要である。また、ラベル印刷やパッケージ印刷の一部分も統計から欠落している。
印刷物およびその他すべての製造業の減少は、驚くべき程同期していた。
落ち込みは3月に始まり、4月には両指数ともCOVID以前の平均を約30%下回った。5月には約8ポイントの上昇で回復に転じている。


出欧州全製造業ならびに印刷業製造指数(2015年=100)、出典: Eurostat(EU統計局)

 

欧州の各国は、国によって興味深い違いがいくつかある。Eurostat(EU統計局)にはほとんどの欧州連合(EU)諸国のデータが含まれているが、小規模な一部の国では印刷生産については報告されていない。また この統計にはノルウェー、トルコ、英国などの非EU諸国のデータも含まれています。

そもそも、COVID以前の生産レベルはかなり異なっていた。東欧諸国ではポーランドを筆頭に近年印刷量が拡大しているが、西欧諸国は2019年後半と2020年前半の指数データが100を下回る傾向にある。さらに フランスは例外で、このデータの指標の基準にいている2015年のフランス印刷データは異常に低い値を示し、データ収集の変更が原因となった可能性もある。
しかし 欧州諸国ほとんどの国で、3 月に減少が進み、4 月には最低水準に達し、5 月にはいくらか回復している傾向が、欧州全体で推移している。
ドイツはEU平均とほぼ同じように推移している。
フランスやスペインのような厳格なロックダウンを行っている国は最悪の打撃を受けている。スペインは4月に34の指数ポイントにしか達しておらず、欧州で最も印刷生産量が少ない国となっている。イタリアは3月に大きな落ち込みがあったが、多少持ち答えている。英国も同様に大きな打撃を受け、4月の生産量は実質的に2015年の平均の半分となった。
スウェーデンは、欧州で唯一COVID危機の厳しい措置を回避した国で、他の国に比べて落ち込みが少なく、生産指数にも多少反映されている。しかし、スウェーデンも経済の減速を完全に回避できたわけではない。5月の生産量も回復していないので、COVIDがスウェーデンの産業にも継続的に影響を与えていることを示していると思われる。
もう一つの国はポーランドである。ポーランドの経済状況はここ数年、内需拡大と西欧向け輸出の増加の恩恵を受けている。COVID危機のピーク時の生産量は、内需と輸出が減速したため、2015年の水準にまで落ち込んだ。輸出向けの長期契約の受注があったため、生産量の急激な減少を防ぐことが可能であった。しかしながら輸出諸国の経済が低迷しているために、長期的に回復が遅れることが見込まれている。


欧州特定国の印刷生産指数(2015年=100)、出典: Eurostat(EU統計局)

 

この統計データを見れば、COVID-19危機のピーク時に、印刷業界がどれだけ大きな影響を受けたのか、ある程度洞察することができる。暫く時間を有するだろうが、雇用状況、企業数の変化、収益への影響についてのデータは、まだ入手できていない。
5月の回復状況を示す統計結果には心強いが、今後の見通しは不透明である。パンデミックがグローバルで高度に張り廻らされた経済に与えた影響は前例がなく、過去の危機との比較にはならない。
回復は続くと思われるがペースは遅く、COVID以前のレベルには直ぐに到達しないであろう。また回復の見通しは各国で異なるだろう。
本シリーズの今後の連載では、欧州の印刷産業市場における回復の進展を見ていきたい。

 

By Ralf Schlozer
Published August 3, 2020
原文 The Impact of COVID-19 on the European Print Industry

関連記事

ログイン

ピックアップ記事

  1. 全世界の印刷、パッケージ関係者が会うと、大抵こんな話になる: 「今まで何回drupaに参加しまし...
  2. 2023年は記録上最も熱い夏となったが、2024年はさらに暑くなりそうだ。
  3. デジタル印刷はワークフローを進化させる。
  4. 印刷工程の自動化とデジタル化は必須である。
  5. 段ボール業界におけるデジタル印刷の変革は、何年もの間、実現することを待ち望んでいました。
  6. Xeroxがdrupa 2024の出展を取りやめるとのニュースを受け、欧州担当編集者のRalf Sc...
  7. Keypoint Intelligenceは、企業のダイレクトマーケティング活動が、時代とともに...
  8. 2.デジタル後加工(加飾)と軟包装デジタル分野の潮流としては、先述の他に新たな業容拡大の方向性が...