DXが実現するラベルの付加価値と印刷業の課題

※本記事は、ラベル新聞社発行「ラベル新聞」2020年9月1日号掲載記事からの転用となります。

小売の現場で変化が生じ、サプライチェーンの一端を担うラベル・パッケージ業界はニーズに合わせた変化が求められる。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や製造業全体のデジタル化の現状について、デジタル印刷の普及に関する情報発信を行う(一社)PODi(内田哲雄代表理事)の亀井雅彦理事に話を聞いた。

コロナ禍のラベル・パッケージ業界のトレンド

直近では海洋プラスチックごみ問題が取り沙汰され脱プラ・廃プラの機運が起こり、軟包装が徐々に紙器へ置き換わっていくものとみていましたが、新型コロナウイルス感染拡大によって、使い捨てプラスチックの衛生性が見直されています。輸送効率や鮮度維持といった観点からも脱プラ・廃プラは検討する余地があるでしょうし、SDGsの実現に際してもデジタル印刷を活用すればヤレの削減やオンデマンドで無駄のない製造が可能となります。もともと多品種小ロット・短納期対応が求められていた中、コロナ禍をきっかけに包材分野のデジタル化は加速していくはずです。

デジタル印刷の課題と言われている特色などの色再現性についても、ブランドオーナーの許容度が広がっているように思います。商品を目立たせることが特色の役割ですが、利用者が増加傾向にあるECサイトではモニター上でその色合いを表現することはできません。あえて特色にこだわらないで多品種小ロット対応を実現できるデジタル印刷のメリットを理解してもらえれば、ブランドオーナーの意識も変わってくることでしょう。

印刷物に求められる役割の変化

小売市場でECサイトが占める割合は10%が上限と言われており、EC最大手のアマゾンが実店舗の小売チェーンを買収しているのは、オンラインだけでは頭打ちになることを危惧してリアルな世界に進出するためでした。ところがコロナ禍で外出できない消費者がECサイトに飛び付いてシェアが伸び、10%の天井を突き抜ける見通しです。

ウェブを介して商品が買われる傾向が強まれば、ラベル・パッケージの目的も変わっていきます。従来は棚で手に取られるかの〝ファーストモーメント〟を左右する役割でしたが、これからは店舗に訪れるよりも前から商品と消費者との交流を発生させる〝ゼロモーメント〟として、ウェブで見つけてもらえるか、選ばれるかといったことに基準が移っていくでしょう。すなわち多品種展開や即時性を生かした話題性など、デジタル印刷が活躍する領域が広まっていくと分析しています。

製造業全体のデジタル化の現状

官公庁の手続きがオンライン化されていない、ネット申請を受け付けていてもバックヤードでは紙と紙を突き合わせているなど、日本全体でみればまだまだ〝デジタル弱社〟が多数を占めています。印刷現場のデジタル化以前に、発注者側がデジタルに慣れていないのが現状です。こうした中では、DTPやW2Pなどのワークフローが用意されている分、印刷業界はデジタルに強く、オンライン校正やウェブ発注などデジタルの利点を顧客へ提案できる立場にいるのではないでしょうか。

アメリカの事例ですが、印刷会社の6、7割がW2Pやワークフローの自動化システムを備えており、これまで導入するだけして活用できていなかった企業でも、コロナ禍で一気にDXを進めています。訪問できなくても、オンラインで顧客へのケアを実現しているのです。日本の印刷会社はそもそもオンライン校正などのソフトやシステムを導入していない企業も多いと思いますが、いかに直接訪問しなくても営業を仕掛けるか、円滑な製造体制を構築するか、これを機に考える時なのではないでしょうか。「営業は足だ」とヒラメ筋を見せている場合ではなく、コロナからの復興を目指さなければ取り残される一方です。

ラベル・パッケージ業界の将来に関わる変革の波

実店舗で購入する場合でも消費者は来店してから何を買おうか考えるのではなく、チラシの代わりにウェブであらかじめ情報を得てから来店する、あるいはウェブ上でそのまま購入するケースが増えています。ブランドオーナーはより情報を届けやすくするため、ホームページの質を向上させていくでしょう。次世代通信「5G」も後押しして、より高解像度の画像・動画などを活用したリッチコンテンツが広がり、あたかも実店舗そのもののような買い物体験を届けられるようになります。こうしたホームページとの連携を想定し、QRコードを載せたラベル・パッケージもより台頭してくるのではとみています。

印刷機メーカーの観点からも、ラベル・パッケージ分野への注目は高まっていくはずです。在宅勤務でオフィスへの出社がなくなれば複合機の使用率も減少していきますから、産業用途、特に成長市場であるラベル・パッケージ向けデジタル印刷機の開発が活発になることが予測されます。現に富士通が3年以内に国内のオフィス面積を半減させる計画を発表していますし、労働環境の変化は印刷業界にも大きな影響を与えることになるでしょう。

今後のデジタル印刷機と関連製品の進化の方向性

海外メーカーを中心に特色を再現するため8色など多色化した機種を展開していますが、サイズや本体価格など日本の印刷業界に合わせて見直す余地があると思います。多色の掛け合わせよりもオペレーターが調色したインクを搭載できるようにするなど、コンベンショナルとデジタルの両方式のメリットを持ったコンパクトな機種が開発されればより受け入れられるのでは。フレキソ+インクジェットなどのハイブリッドモデルも発表されていますが、サイズ感で国内では導入できる企業が限られてしまう可能性があります。ランニングコストの捉え方も、印刷機メーカーと印刷会社の間でギャップが埋まっていないようにみえます。オフィスの複合機と異なり、産業用のデジタル印刷機のランニングコストは製造原価となるわけです。印刷会社が利益を取れるようなインク代や保守代の価格設定が、生産機として活用できるかのポイントとなります。

後加工機のイノベーション

ラベル・パッケージで課題となる後加工についても、イノベーションが待たれる領域です。デジタル印刷の多品種小ロット展開に応える最適な後加工機の技術開発を進めていかなければ、デジタルの真価を発揮できません。欧州では後加工の専業メーカーが印刷機メーカーと共同で開発を続けていますし、日本でも印刷現場に合わせた後加工ソリューションの提案が求められています。製本業界ではバリアブル印刷時の連携も考慮した加工ソリューションが浸透しており、ラベル・パッケージでも印刷機メーカー主導で最適解を模索していただきたい。「筋が絶対に出ないインクジェット」「特色の完全再現」といったことができればいいのですが、現状では印刷品質の追及だけでは限界がありますから、後加工まで含めたトータルアプローチが確立されればさらにデジタル印刷への置き換えは加速していきます。

常識が覆るこれからに対応するため

ECサイトの10%の天井が崩れてきていることや、在宅勤務の推奨といった変化が起こっている今、印刷業界でも何%までがデジタル印刷へ置き換わるのか、これまでの見方はもはや当てにならない時代となってきました。軟包装分野でも、デジタル印刷を活用したビジネスモデルで成功事例が増加し、デジタル化を後押ししています。グローバルで展開している米ePac Flexible Packagingは顧客の受注が決まった分だけ刷るため、ロスは出さない、在庫を残さない、といった合理的なビジネスを進めており、ブランドオーナーからのデジタル印刷に対する理解も進んでいるようです。

他の業界に比べてデジタル化の下地が整っている印刷業界では、これからワークフローや印刷のデジタル化に取り組んでも十分間に合うと思っています。もっとも、デジタル印刷機や後加工機のまとまった設備投資ができるかというと、先行き不透明な状況ではなかなか難しいことかもしれません。まずは、ワークフローの自動化、オンライン校正などソフトウエアへの投資から始めてみてはいかがでしょうか。クラウドシステムを活用すれば大きな投資にはなりません。長年活用している既存のコンベンショナル機でも、センサーを取り付けて稼働状況をIoTで把握するようなソリューションも準備されています。世の中の変化に対してできることから工夫し、今回のコロナ禍を変わるきっかけと捉えて取り組んでいただきたい。

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