またもやインクジェットが主役のdrupa 2016  注目はLandaのNanographic Printing(WhatTheyThink?)

drupa 2016を前にLanda氏は、Nanographic Printing技術の開発を刻々と進めている。David Zwang氏がその全容を解説する。

 2012年にBeni Landa氏は、Nanographyという革新的な印刷技術に特化した新たなベンチャーの立ち上げを発表し、会場を沸かせた。このLanda氏とはいったい誰なのだろうか。知らない人もいるかもしれないので説明すると、1993年に世界初のデジタル印刷機技術を発表し、Indigo社を立ち上げ、後ほど2001年にHP社に売却した人である。IndigoをHP社に売却した後、ナノ技術を使ってエネルギーをつくれないか、研究の対象を方向転換させた。研究が進んでいくと、これまで経験してきた印刷技術とプロセスに対する情熱が再び込み上げてきて、ナノ技術を印刷プロセスにも適用できるのはと考えはじめたのである。オフセット印刷と同等またはそれを超える品質、効率、コストを実現するナノ技術を使ったデジタルプリンティングプロセスの研究開発を本格化したのだ。

新たに開発する技術がインクジェットであったため、drupa 2012を発表の場として選んだ。その場所とタイミングは絶妙であった。会場では、最初のロットを購入するため長い行列が出来たほど。基本合意書が次々と署名されていき、400社までに登った。しかし、当時は技術についてそれほど情報が出回っていなかったため、私はあまり騒がなかったのである。

この新技術はイベントの18ヵ月後に出荷を予定しているとのことだったが、案の定、その通りにはならなかった。 Landa氏のチームが考えるコンセプトと現実に大きな隔たりがあったからだ。技術を完成させるには、化学的、データ的要素、ジェット噴出率、スピード、品質など、解決すべき課題がありすぎて、予想していたより遥かに高いハードルをたくさん越えないといけないとわかったのである。Landa氏は、出荷を取りやめ、イスラエルのRehovotのラボに閉じこもり、drupaと全世界150社の印刷会社のフィードバックをもとに、課題を潰していったのである。その間に、Landa Digital Print社はAltanaグループから新たな投資を受け、技術面と資金面での支援を受けた。今回のdrupa 2016に披露される技術は基本的にはdrupa 2012年のものと同じだが、4年間かけ、多くの課題を解決したかたちとして登場する。私自身も、技術の詳細について、理解することができるようになったので、ある程度解説できるようになった。


Landa Nanotehnology技術とは

まず、印刷機の技術の中核となる Landa Nanotechnologyについて触れたい。私は、かねてから産業用インクジェットがオフセット印刷に取って変わるには、多くのハードルを越えないといけないと述べてきた。最も厳しいハードルは、インクを基材(メディア)に定着させることだろう。インクジェットのインクは、水性あるいはソルベントベースの液体のキャリアーが必要で、それが問題を起こす。これまで、印刷機メーカーは、水性の場合はインクを定着させるために、基材にトリートメントと呼ばれる事前の塗布を行っている。それは基材の製造時で塗布される場合、プリントの事前に、あるいはプリント時にインラインで、基材の全面あるいは一部をコーティングする必要があった。ソルベントインキの場合は、UVまたは熱、あるいはその両方で、水分をとばして基材上で速乾させ、インキを定着させなくてはならなかったのである。

もうひとつの課題は、スピードだ。特に枚葉(シート)印刷機においてはそうである。富士フィルムのJetPressの高品質モードを見ると、枚葉インクジェット印刷機のスピードは、だいたい一時間あたり2700枚が限界。巷にある全ての枚葉インクジェット印刷機の課題は、基材がヘッドの下を通った時に、インクを直接噴射する構造になっている事である。高速に搬送されている基材の正確な場所にインクの液滴を着弾させることを考えただけでも、気が遠くなってしまう。インクの液滴は非常に軽く、搬送されている基材を高速で搬送することにより、プリントヘッドの間には空気が流れている。さらに用紙の先端の煽りよって風が発生するので、連続紙搬送と比較すると、枚葉搬送(シートフェッド)は液滴の正確な着弾が格段と難しくなる。更に、水滴インクが、用紙に付着したあと吸収されていくので、印刷品質と乾燥に影響を与えてしまうのだ。


インクジェット技術について

Landa Nanographic Printingプロセスはこれらの課題を解決する画期的な技術だ。プリントヘッドは、ピエゾ・エレクトリック・ドロップオンデマンドで、富士フィルムのDimatix SAMBAをベースに特別にデザイン設計したもの。富士フィルムのMEMS生産技術により、1200X1200の解像度、グレーススケール4段階を実現した。一般的にMEMSは、シリコンの基材にミクロンレベルで立体の電子回路や機械的構造を形成するための技術のことを指すが、様々な部品がこの技術で作られる。MEMS技術をインクジェットヘッドに使う事により、機械的にも化学的にも高い精度と密度で、安定したインクジェットノズルを作ることができるようになるのだ。富士フィルムのDimatixヘッドは最低2ピコリットルのドットサイズを形成するこができる。それにより滑らかなオフセットのような印刷が可能となるのだ。 現状ヘッドの寿命は2年以上といわれているが、多分それ以上持つかもしれない。寿命について断言できるのは時期尚早だろう。他社も、独自改良したSAMBAプリントヘッドを、富士フィルムやHeidelberg Fireなどのイメージングシステムに採用しているが、イメージングプロセスについては、それ以外殆ど共通点はない。

Landa Nanographic Printingのインクは、イスラエルのLanda Digital Printing社によって開発され、製造される。輸送費を軽減するために、インクは濃縮された形で出荷される。殆どのインクジェットメーカーが、ナノ状に粉砕したピグメントを使っているが、Landa NanoInkはそれらに対してユニークな組成をもっていて、優位性があるという。何十年の研究の結果、通常、インクのピグメントがナノ単位の狭い範囲で配分されると、強い色彩を放つことが分かった。この発見をもとに、Landa Nanographic Printing プロセスの中核となるのが、NanoInkの色素なのである。Landa NanoInkは、二桁のナノ単位の超微細のピグメント分子を含む。それに対して、オフセットインキの分子は、高品質であっても500ナノメーター位の大きさなので、少なくとも10倍の大きさだ。加えてNanoInkは水性なので環境に優しい。

Landaは、パントーン階調の80%までを実現した4色の単片印刷機をまず出荷していく。同印刷機は、7色(CMUKOGB)まで増やすことができ、パントーン階調の93%までの再現が可能だ。連続紙(ウェブ)印刷機のW10は、ホワイトインクのオプションがあるので、計8色となる。NanoInkのプリントは、ドイツのINGEDE規格に準拠しており、脱墨が可能である。Landaは、パッケージアプリケーションをひとつのメインターゲットとしているので、インクは、FDAとEUの食品接触(非直接)の規制と、パッケージング及びパッケージング材料に関するBRC/IOPグローバルスタンダード等に適合している。


オフセットの転写について

Landaの技術が最も特徴とするところはイメージングのアプローチだろう。インクを加熱した転写ブランケットにジェット噴射し、それをブランケット上で乾燥させ、基材に転写させる。まさにオフセット印刷そのものといえよう。実際、デジタル印刷のオフセット化というのはLanda氏が得意とするところ。Indigoの中核となるイメージングモデルデザインは、実証済みである。転写ブランケットにインクを射出することにより、ご案内したインクジェットの課題:各基材表面上でのインクの乾燥と、他の枚葉インクジェット機が有するスピードの問題:もクリアしている。

原理はそう難しくはないが、それを具現化するとなると相当な苦労がともなう。まず、各色のインクを熱であたためられたコンベイヤ転写ブランケットに噴射する。インクの水分を飛ばし、極薄の高分子膜層(500なのメートル)を残す。それを印刷するのだ。連続コンベイヤ転写ブランケットに噴射することにより、基材の動きによって引き起こされる風の乱れを解消することができ、スピードを上げることができる。紙であろうとプラスチックであろうと、材料を選ばずにイメージを転写することが可能だ。イメージは、瞬時に基材に定着し、耐擦過性の保護層を形成する。転写されたインクに水分がないので、ブランケットに残らない。だから、従来のインクジェットでの難点である、基材の制約や、広範囲でのインクカバレッジにもクリアしている。このビデオはナノグラフィーの特徴を良く掴んでいる。


品質の改善について

このプロセスによって印刷品質も向上する。インクが従来のインクジェットのように基材にしみ込んでいってしまうとか、オフセット印刷のように拡散しないのだ。Nanographyのドットの方がシャープだ。より細い罫線が描けるし、イメージもシャープとなるので、微細な表現ができ、印刷コントラストも高い。このシステムはAMとFMスクリーニングの両方をサポートしている。


搬送部分と印刷機構成について

Nanographyの搬送部分はLandaと小森コーポレーションの共同開発。製造も小森コーポレーションだ。このアプローチは理にかなっているといえよう。小森コーポレーションは、1925年からオフセット印刷機を作ってきた実績をもつ。給紙、搬送、排出などは小森コーポレーションの得意とするところ。搬送部分を小森コーポレーションに託したおかげで、Landa氏はイメージング技術に特化することができる。

drupaには3つのモデルが展示されるという。枚葉モデルが2機種。S10は、紙器やPOP用。S10Pは両面印刷ができる一般商業印刷向け。両方とも普通のコート紙でも上質紙でも印刷でき、前処理のトリートメントコートは必要ない。3つ目のモデルはW10だ。軟包装向けに連続紙給紙で、プラスチック、フォイル、板、紙など幅広く対応できる。

全ての印刷機に同じイメージングシステムが使われていて、Landaのアクティブ・クオリティーマネージメントが標準として装備される。それはインラインでクローズループの品質管理システムであり、ノズルの故障を自動的に補正することができる。

幅広いパッケージや商業印刷のアプリケーションに対応できるサイズなので、汎用性が高い。対応できる厚さは、2.4から32ポイント(60~800グラム)まで。スピードは時間あたり6,500シート。13,000シートまで上げるハイスピードオプションも備える。ハイスピードオプションになってもヘッド数もプリントバー数も変わらないので、出荷後でもアップグレードすることが可能だ。この版形はほとんどのパッケージと商業印刷のスイートスポットを直撃する。この版形によってこの印刷機は、印刷会社にインクジェットの購入を真剣に検討させるような仕様となっているといえよう。オプションであるコーティングユニットは、全面と部分コートが可能で、UVと水性コーティングができる。

執筆している時点では、インクジェットでB1に対応していると発表されたプロダクションインクジェットは、ハイデルベルグのPrimefire 106のみである。同印刷機もDimatixのSAMBAプリントヘッドを使っているが、インキは水性で、イメージは基材に直接投下される。Landaによると、パッケージング業務の半数以上は、S10でコスト効率よく生産することができるという。その根拠は、B1用紙を約5,000以上処理するところが分岐点であるとして導き出されている。

LandaS10Pは一般商業印刷向けの両面印刷B1印刷機だ。S10 と同様、印刷会社にとってなじみのある処理サイズといえよう。S10との違いは両面印刷ができるところ。基材を反転させて二度イメージングさせる。イメージが印刷されるとき既に乾燥しているので、搬送部分に補助的な乾燥機は必要ない。従って両面印刷も仕上げ加工も印刷直後に可能である。よって、印刷の能力は時間あたり3,250枚、スピードオプションを選べば6,500枚となる。さらに時間当たり片面13,000枚のスピードと組み合わせれば、従来のオフセット印刷機と十分に対抗できるだろう。

LandaW10は、ロール給紙モデル。最大用紙幅は41.3インチ、最大ロール径は39インチだ。基材の厚さは、4ポイントから10ポイント(10~350ミクロン)。スピードは328フィート/分=100m/分で、ハイスピードオプションを選べば656フィート/分=200m/分となる。印刷機の前後にはアンワインダとリワンダを設置。厚紙、用紙、プラスチック、フォイルなど殆どの基材に対応する。Landa氏によると、従来のオフセット印刷と比較して、約30,000フィート=9,144m以上の仕事が分岐点になるという。


印刷機コントロールとDFEについて

Landaの印刷機をDrupa2012で見た人で一番印象に残ったのは、巨大なiPadのような印刷機制御用インターフェースかもしれない。その姿は、印刷機としてデザインがユニークだけではなく、日常的に馴染みだしてきたスマホと同じようなインターフェースで、インタラクティブなタッチコントロールは操作しやすい。コントロールの表示以外に、機械内で実際に紙が搬送されている稼働している動画を表示する。ユーザーのフィードバックにより、印刷機のコントロールのレイアウトはdrupa2012と変わり、全長が長くなったが、使い勝手はよくなった。Landa氏はこのコントロールをコクピットと呼ぶ。その名称は、写真を見れば納得できるだろう

Landa Nano Market Entry3

 Landa氏は、印刷機のDFEはEFIと手を組んだ。EFIはFieryDFIをデジタルプリンター向けに提供してきた長年の実績をもつが、Landa Pressの要求は新たな挑戦を突きつけた。端的に言うと、データストレージとRIP処理が現状の技術では満たせなかったのである。その詳細については、12月のブログで触れている。InfoTrends blog published in December of 2014 (“EFI to Drive Landa Digital Presses”).

DFEは、スタンダード、パフォーマンス、そしてプレミアムの3種類が提供される。他のメーカーと同じく、DFEの構成は、アプリケーションの要求度合によって変わってくる。


ナノ・メタログラフィについて

Landaは、drupa 2016で、パッケージ関連で、もうひとつ新しい技術を発表する。

前述したとおりNanographic PrintingはLanda研究所の研究開発の成果だが、ピグメントへの研究だけではなく、ナノ粒径の金属分子の研究も行ってきた。ナノ・メタログラフィ(Nano-Metallography)は、その派生製品である金属印刷だ。最初のアプリケーションは印刷の箔押しに使われるが、将来的には電子回路、製造業向けのアプリケーションに使うことを想定している。訳者注:Mettallization=メタライゼーション 一般的に絶縁体、半導体の上に導体皮膜を形成すること。

この新しいメタライゼーション(金属皮膜印刷)は、ヤレを無くすことによって、フォイルのコストが半分以下を目指すという。そのプロセスは、まずバターンイメージを印刷する。パターンイメージは、印刷手法を問わない。Landa氏はフレクキソやスクリーン印刷でテストしてきたが、通常のオフセットやグラビア印刷でも可能だ。Landaは、詳細を語らないが、パターンイメージを印刷するためのインクになんらかの添加物を入れるのだろう。

パターンイメージは、Landaの金属印刷モジュールを通っていく。金属印刷には、最低ナノフレークとドナーロールが必要だ。パターンイメージを印刷した基材が、ナノフレーク層が付着したドナーロールを通過するときに、ナノフレークがパターンイメージに吸引されて、金属印刷が形成される。ドナーロールに付着したナノフレークは、プロセスの中で毎回復元されていく。

金属印刷は上記写真のようなL50ナローウェブ・ラベルフレキソ機で印刷される。drupaでは、2種類の金属印刷を披露する予定だ。ひとつは、シルバーのオーバープリント。もうひとつはナローのフレキソラベル機で金粉のインラインのプリントを予定している。

Landaは、最初は、ナローのラベル印刷機の追加モジュールとして、Nano-Metallographyのモジュールを提供する予定だ。今後は、よりワイド フォーマット機、フレキソ、グラビア、枚葉、連続紙オフセットの印刷機メーカーにも広げていき、彼らの印刷機で金属でのパターン印刷を展開していく予定である。


まとめ

Nanography Printing Pressは、drupa 2016で展示され、ブースは前回より倍となる。まだ、最終の詰めを終えていないが、ベータ機は2017年を予定している。S10のベータサイトは決定済み。選ばれた印刷会社は、立ち上げたく、待ち遠しいようだ。Landaは、2017年出荷を前提にdrupa 2016で受注を開始するという。drupa 2012で基本合意書を署名してキャンセルしていない印刷会社への生産が、恐らく初期生産分の多くを占めるであろう。私は長年色々な印刷サンプルを見てきたが、印刷会社のNanogprahyに対する期待感を考えると、それは簡単に想像できる。印刷機の価格は、高級オフセット・フレキソ印刷機と同等を予定しているということを聞いた時に、期待感が高まってしまうのは私だけではないだろう。

 

 

  

whattheythinkmini
By David Zwang
Published 2016年3月29日
原文 http://whattheythink.com/articles/79607-inkjet-drupa-2016-continuing-story-landa/ 
http://whattheythink.com/articles/79642-drupa-landa-nanography-metallization/
翻訳協力 Mitchell Shinozaki

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