レーンチェンジャーとゲームチェンジャー:インクジェットによる競争力の多様化 WhatTheyThink?

インクジェットは、新しい市場に参入するだけでなく、その市場での私たちの考え方や運営方法を変えつつあります。インクジェットを採用する印刷会社が増えるにつれ、「レーンチェンジャー」と呼ばれる印刷会社が増えてきています。インクジェットインサイトのエリザベス・グッディング氏は、レーンチェンジャーがどのようにゲームを変えるものになりつつあるかを詳しく見ていきます。

昔々、トランザクションとダイレクトメールのデジタル印刷は、事前に印刷された台紙にモノクロのトナープリントを追い刷りすることを意味していました。その後フルカラートナーが登場し、ダイレクトメールのパーソナライゼーション、応答率の向上、ターンタイムの短縮が可能になりましたが、請求書や明細書とあいては、少し時間がかかりすぎ、発送処理価格も高すぎました。

フルカラーインクジェットが顧客とのコミュニケーションに利用できるようになると、その採用は急速に進み、月に 3,000 万枚以上の画像を生産するダイレクトメール印刷が、広がっていきました。I.T. Strategies社によると、フルカラートナーはダイレクトメールの牽引役となり続け、カラー品質が向上したことでインクジェットプリントを採用するようになり、2018年にはデジタルで制作されたダイレクトメールの通数がオフセット印刷を上回ったとのことです。

当然ながらこれらの変化は、インクジェットを利用している取引印刷会社やダイレクトメール会社にとって、経済的なメリットがありましたが、影響を受けたのはこれらのセグメントだけではありませんでした。デジタルへの移行前には、これらのボリュームのすべては商業印刷製品として、企業のレターヘッドやダイレクトメール印刷が必須とされていましたが、インクジェットはすぐにこれらを無用としてしまいました。商業印刷会社は、デジタル革命、特にインクジェットには完敗でした。商業印刷会社が長い間 “決してインクジェット はやらない”という態度をとっていたことは不思議ではありません。インクジェットは、共食いする敵だったのです。

トランザクション印刷やダイレクトメールは、特に商業印刷会社をターゲットにした活動を行っていなかったにもかかわらず、その影響は大きいものがありました。インクジェットの年間ページ数が一貫して 2 桁台で成長していた時期に、その成長の大部分が商業用向けのページ数を犠牲にしていたのです。
I.T. Strategies社の「The Continuous Feed Ink Jet Production Market-2017 連足紙インクジェットプリンター市場」から引用した以下のグラフは、2015年から2018年までの各年のインクジェットのページ枚数の成長の3分の1が、オフセット印刷のボリュームの減少によってもたらされたことを示しています。

出典: I.T.ストラテジー

 

トナーからの置き換え量が減少し、インクジェットの新しいページ数が増加し始めても、オフセット印刷からの置き換えは引き続き順調に推移しています。この調査が発表された時点では、枚葉インクジェットはまだ黎明期でありました。B2サイズ 枚葉印刷機が市場に出回り始めたのは約 8 年前のことで、商業用やその他のグラフィックアート用途をターゲットにしていました。商業用プリンターは、連続紙インクジェットがトランザクション印刷やダイレクトメールに提供していたような、魅力的なコストモデルを提供することはできませんでした。2015年にはCanon i300が市販され、2016年にはXerox Brenvaが発売された。連続紙のものと同じく、これらのプリンターは、トランザクション印刷やダイレクトメールにとってはより魅力的なものであったが、これらも商業印刷会社からのオフセット印刷のボリュームの置き換えを加速していました。

2020年まで早送りすると、キヤノンとゼロックスは商業印刷市場に直接訴求するために、Canon iXシリーズとXerox Baltoroで枚葉プリンターの販促を強化しました。ランダは現在、商業印刷をターゲットとした生産用B1印刷機を所有しており、パートナーの小森は2021年にNS-40 B1印刷機で早くも追随する予定です。

この 2 年間、キヤノン、HP、コダック、スクリーン、リコーなどの主要な連続給紙 OEM メーカーは、オフセット用紙での印刷品質を向上させる高カバー率・高解像度の装置をサポートする新装置を導入してきました。

実際、パンデミックが発生する前は、プロダクションインクジェット機のOEMの開発およびマーケティング費用のほとんどは、商業印刷市場のバイヤーに向けられていました。パンデミックが発生する前は、それが OEM やその顧客にとって非常にうまく機能していましたし、COVIDの脅威 が私たちの健康と経済システムから消えた後も、その成功は続くと予想されます。しかし、トランザクション印刷やダイレクトメールのインクジェットの採用が商業印刷機に打撃を与えたように、グラフィックアート分野でのインクジェットの採用は、他の市場にも副作用をもたらす可能性があります。

インクジェットがあらゆるゲームを変える

インクジェットを早期に導入した企業とその市場への影響から学んだことは、インクジェットを購入した企業は、その結果、ビジネスモデルに大きな変化が生じることが多いということです。ある企業が特定のニーズを満たすためにインクジェットを購入したとしても、すぐに自分たちにできることが他にもあることに気づくことがあります。実際にはデバイスの処理量が多くなったために、既存の作業が終了した後で生産性が低下し、新しい作業を探しに行かざるを得なくなったというケースも少なくありません。

連続給紙方式のインクジェットはスケールメリットが非常に大きいので、長時間の稼働で・大容量の稼働をさせないことは、お金を捨てているようなものです。トランザクション印刷では、生産のアンダーピークを埋めるため、他の仕事を探すのは非常に自然なことで、ダイレクトメール、ワークブックや、ディレクトリといった仕事で穴埋めをしていました。より多くの仕事ができるようになれば、より多くの市場で仕事を探すことができるようになります。彼らはもう競争するために自分たちのレーンに留まる必要はありません。

2019年の調査で、インクジェット稼働について、ほとんどのトランザクションとダイレクトメールが、既存のセグメントからは収益の半分以下しか獲得していない「レーンチェンジャー」になっていることを明らかにしました。
下図に示すように、調査対象となったダイレクトメールの70%、トランザクション印刷の58%、企業内印刷事業(インプラント)の53%が “レーンチェンジャー “となっています。

セグメント別レーンチェンジャーと専用オペレーションの割合、出典:インクジェットインサイト2019データ分析

 

120社のダイレクトメール会社のデータによると、ダイレクトメールサービスから80%以上の収益を得ているのはわずか17%でした。調査対象となったトランザクション印刷を行なって印刷会社60社のうち、トランザクションプリントサービスから収益全体の80%以上を得ているのは28%にすぎませんでした。トランザクションプリントサービスは通常プリント以外のサービスで、電子納品、アーカイブサービスを提供しており、プログラミング処理も大きな収益源になり得るため、これはあまり驚くべきことではありません。しかし、インプラントオペレーションの調査データは、インクジェットの採用と強い相関関係があることを示しており、興味をそそられました。

調査対象となった38の大規模な企業内印刷事業のうち、47%がコアビジネスに専念しています。この専業の47%を掘り下げてみると、インクジェットを導入しているのは1社だけでした。逆に、53%の企業内印刷企業では40%の企業がインクジェットを導入しています。
企業内印刷事業の仕事は驚くほど多様であるため、38 社の企業の事例では分析が難しく、サポートしている業界や組織の主力の印刷の種類(商業、取引、ダイレクトメール、書籍、看板など)さらなる分析が必要であることを示しています。

変化に備える

レーンを変えるのは簡単なことではありません。インクジェット機器は様々な仕事をこなすことができるかもしれませんが、その企業が販売したりサービスを提供したりする方法を知っているとは限りません。トランザクション印刷の分野をビジネスに追加するダイレクトメール企業は、より堅牢なプログラミングとデータ保護に加えて、より多くの後加工とメーリング機器が必要になるかもしれません。

インクカバレッジが低い封筒メールから先に進んでいったトランザクション印刷は、カラー管理と基材について以前よりも多くのことを学ぶ必要がありました。また マーケティングにおいても、今までの業務系顧客とは全く異なる顧客層に販売することになるでしょう。力仕事になることもありますが、それは現実に起こっていることです。ダイレクトメール印刷とトランザクション印刷を扱う企業は競合しており、それらの合併頻度は増しています。

今、商業印刷会社はインクジェットを導入し、多くはオフセット(およびトナー)印刷機のポートフォリオにインクジェットを追加しています。他のセグメントの企業と同様にインクジェット印刷機を回したいと考えており、自社の印刷機と共食いさせるよりも、他の誰かからボリュームを奪いたいと考えています。これらの企業は、ディレクトリ、ワークブック、またトランザクション印刷やダイレクトメールといった通知物の「オフピーク時」の仕事で競合している可能性があります。

これらのすべての印刷会社が同じ顧客にインクジェット起点のサービスを販売し始めると、複数種類の仕事を請け負う能力は、競争上の優位性となる可能性があります。レーンチェンジャーは、顧客の印刷ニーズを満たす「ワンストップショップ」体験を提供することで、ゲームチェンジャーとなれます。これは、できるだけ少ないサプライヤーとの取引を好む大手ブランドに販売する場合に、特に当てはまります。

インクジェットを高品質な商業生産に導入することで、もう一つの副次的な効果があります。ブランドのマーケッター、デザイナー、プリントバイヤーは、まったく新しいレベルのインクジェット品質を知ることになります。それはビジネス品質やそこそこに十分な品質ではなく、オフセット印刷品質以上の品質であり、この最新鋭のインクジェット機で生産されています。

色の忠実度と印刷品質は、以前は色に敏感ではなかったセグメントにおいて競争力のある要素になりつつあります。プロファイリングとインク制限を使用してコストを抑えているトランザクション印刷の企業は、ブランドカラーに敏感になっていることに気づくかもしれません。

最高品質のカラーを提供することは、「ビジネスカラー」よりも高価になるため、企業は提供されるサービスレベルに応じて適切な価格を設定し、コストの違いの根拠について顧客を教育する必要があります。インクは液状の”金”であり、仕事は相対的なインク使用量を考慮した価格設定が必要です。これは、競争力のあるオファーを提供しするために、より多くの用紙とプロファイルを追加することを意味します。

インクジェットが市場を変える

インクジェットは新しい市場に参入するだけでなく、その市場での私たちの考え方や運営方法を変えようとしています。この記事では、主に3つの市場セグメントに焦点を当ててきましたが、インクジェットは書籍制作、雑誌、ディレクトリ、カタログ、サイネージ、セキュリティ印刷、そしてもちろんパッケージやラベルにも進出しています。

これらの市場におけるインクジェットのページは、そのセグメントに対応するためにインクジェットを購入した企業からのものだけでなく、新しい分野に足を踏み入れたレーンチェンジャーからのものでもあります。インクジェットを導入している企業は、単一のアプリケーション分野で事業を展開している企業は少なくなってきています。インクジェットを使用して複数の市場に進出し、印刷量の成長を促進している企業の方が多くなってきています。

これは競合他社が、予想とは異なる方向から参入してきている可能性があることを意味します。競合他社に追い抜かれる前に、周りを見渡してレーンを変えるべきかどうかを判断してください。

 

By Elizabeth Gooding
Published November 3, 2020
原文 Lane Changers and Game Changers: Competitive Diversification with Inkjet

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