K字がもたらした南北問題 ― コロナdrupa その1 ―

コロナによって2020年からの延期を余儀なくされ、2021年もリアルを諦め、virtualとなったdrupa。私はこれを「コロナdrupa」を呼ぶことにする。コロナの影響を色濃く受ける印刷業界と、リアルではなくオンラインで行われたことにより、我々がデュッセルドルフで見てきた従来のdrupaとは、当然ではあるが、似ても似つかぬものとなった。しかしながら、依然としてdrupaが、印刷業界の「頂点」であることに変わりがなかったと感じた4日間でもあった。コロナに叩き伏せられながらも、なんとかここで踏みとどまってvirtual drupaの実現に漕ぎつけた主催者に、大いなる敬意を表したい。
私は4日間に渡り、「我、デュッセルドルフに在り」のつもりで、欧州時間で過ごし、白アスパラの瓶詰と白ワインで、「頂点」を画面越しに見続けた。実際には、画面遷移の罠に嵌って基調講演が聴けなかったり、時差?とワインで早々と完落ちしたり、酔眼朦朧で書いたメモを翌日見直すと意味不明で愕然としたり、の連続であった。が、主催者のご厚意で全てのセッションが録画されており再生可能なのが、福音であった。画面遷移に関しては、翌日修正されていたので、嵌められたのは私だけではなかったようだ。以下、徒然なるままに「出張報告」を、数回に分けて差し上げたい。

世界がコロナの襲撃を受けてから、既に1年以上経過している。経済的には最悪期は既に抜け出して、回復傾向が世界的に見られる。下図は米国の小売業の対前年の成長率である。だいたい5%前後を推移しているが、2008年と2020年に急激な落ち込みと回復が見られる。左の2008年がリーマンショックで、右の2020年がコロナである。当然ながら店が閉まってしまったコロナの方が、小売業に対する影響が甚大であって、ほぼ垂直で落ち込んでいるが、総量では回復しているのが見て取れる。

総量では回復したとはいえ、元に戻ったわけではない。物も、売れ方も変わっている。下図は米国の小売業に占める、eコマースの割合である。

2019年までの20年間で順調に占有率を10%にまで上昇させてきた。それが2020年の半年間で5%跳ね上がっている。言われるように、「コロナは既存の流れを加速する」のが見て取れる。これまで10年掛かった占有率5%上昇を、半年で成し遂げている。小売業全体の成長が5%なのとは分母が異なるが、小売業は元に戻ったのではなく、明らかに中身はスゲ替わっているのだ。
リアルの店舗の売上がネットに掻っ攫われた、というチャネルの変化だけではなく、商品そのものも変わっている。今回の回復の特徴の一つに、大いなるバラつきの存在がある。戻るだけではなく飛躍的に伸びるもの、元に戻るもの、戻らない物、激減したもの、と分断されている。これは回復がV字でもU字でもなく、業種や業態、さらには商品によって分岐したK字になっていることによる。

今回の緊急事態宣言で、今日(4月25日)から居酒屋は、酒を出せなくなった。これで元気が出ぬのは、店のせいでも亭主の責任でも無い。しかし、それに代わって酒屋が繁盛する、といった分断が起こってしまう。今回のdrupaは画面越しであって移動の必要はない。本来は今頃荷物をまとめて、エッチラオッチラとデュッセルドルフの空港に向かって、帰国の途につく筈である。ホテルの領収書をしげしげと眺めて、溜息をついている頃である。街ぐるみでの“カッパギ”体制であって、1年前に予約したホテルは通常の数倍の料金、まさにプレミアム価格。デフレの円で払うのは厳しい。マルクの時代が懐かしい。飛行機もエコノミークラスと言いながら、料金が経済的であるわけでは決してない。アルシュタットのレストランで、白アスパラを白ワインでやっつけるのは、この上無い楽しみであった。しかし、これも安くはないし、チップに悩む。こうしてカッパぐことで、皆、潤っていたデュッセルドルフ。今回は、それが吹き飛んでしまった。つまり日本の居酒屋を襲っているよりもさらに厳しい状況が、デュッセルドルフの都市全体を襲っているに違いない。ドイツ政府はわが国よりも厳しい規制をホテル、飲食店等にかけ、それに相応する休業補償の助成金を出しているに違いない。なんとか2024年にはお目に掛りたいものだ。とはいえいくらドイツ政府でも、街と一体化していたとはいえ、スリとジプシーには助成金は出さないのではないだろうか? 彼らは今どうしているのだろうか?

印刷業界にも、厳然としてK字が存在する。デジタルによる長期低落傾向を示していた商業印刷は、コロナの直撃を受け、5年先、10年先と考えられていた需要減少に直面している。かたやパッケージ関連は影響を受けていない。むしろ活況にある業種も多い。ここで大きく分断され、南北問題が生じている。
今回のdrupaは、この印刷業界の南北問題を、実に見事に表現してみせた。下記がvirtual drupaのサイトに残っているトピック名とトピック別のセッション数である。総セッション数が233で、複数のトピックに跨っている物も多いため、総計が504となっている。そのうち、パッケージ関連が半数を占めた。

Web Session Topics Number 内パッケージ関連
Exhibitor Web Session総計 233 (筆者調べ)
Branding 20 7
Brand Story 13 8
Best Case 25 7
Multi Sensory Marketing 5 0
Package 61 61
Packaging Production 51 51
Smart Intelligent Package 20 20
Design 17 4
Security Printing 12 0
Printed Electronics 3 0
Textile 7 0
Fashion 3 0
Interior Decoration 6 0
3D Printing 1 0
Additive Marketing 1 0
Sustainability 42 20
Green Printing 22 8
Inkjet 35 8
Screen Printing 5 0
Functional Printing 12 5
Future Technologies 44 16
Robotics 8 7
Industry 4.0 38 12
Workflow Automation 53 21
TOTAL 504 255

「筆者調べ」といっても、サイトでトピック毎に検索し、サラっとパッケージ関連を拾っただけなので、多少の誤差はご容赦願いたい。Topic名にPackageを含むものは、全てパッケージ関連とした。drupaは印刷業界の南北問題に合わせて、パッケージに舵を切るのであろうか?

しかし、ちょっと待って頂きたい。drupaは印刷業界の「頂点」ではあるが、パッケージ界には別の「頂点」がある。drupaは4年に一度の祭典であるが、interpacは3年に一度のパッケージの祭典である。筆者はinterpackは未経験であるが、場所はともにデュッセルドルフ、規模も同等と聞いている。思えば2020は3年に一度と4年に一度がぶつかりあう年周りであり、drupaはinterpackに押し出されて通常の開催時期である、白アスパラの5月から、7月になったのであった。drupaはこれを嫌い、2019年での開催を、ギリギリまで模索し続けていたように記憶している。

interpackは、オンラインイベントは行わなかったので、コンテンツの比較はできない。しかし当然ながら、パッケージのイノベーションは、その素材と形状から起こる。印刷からではない。今回のvirtual drupaでも、パッケージの素材に踏み込んだセミナーは、複数存在している。それはパッケージでおこるイノベーションに、対応する為の物だ。パッケージのイノベーションは、drupaからは起きまい。
本来のdrupaは、上記のTopicsでいうならば「Future Technologies」であろう。44本のセミナーが行われた。数はともかく「今年はこれが凄い!」と言えるものが、現時点では思い当たらない。私の見落としであることを願う。

drupaは、ひいては印刷業界は、どこを目指すのであろうか?

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